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福岡地方裁判所 昭和33年(わ)937号 判決 1959年3月24日

被告人 李綾子こと李順子

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主文

免訴。

理由

本件公訴事実は、

被告人は、朝鮮人であつて日本の国籍を有しない者であるが、外国人登録法施行前から本邦に在留し、昭和二十七年四月二十八日当時福岡市管絃町に居住していたところ、同法第三条の規定に従い、同日から三十日以内に居住地の市長たる福岡市長に対し、同法所定の外国人登録証明書の交付申請をしなければならないにも拘らず、右申請をしないで前記期間を超えて引続き本邦に在留したものである。

と、いうにある。

よつて審按するに、右の事実は、被告人及び証人朴相守、同郭命植、同金寿根の当公廷における各供述、被告人に対する検察官の供述調書二通及び外国人登録原票の写真によつて認め得るところであるが、また一方右の諸証拠及び証人中川健、同成鳳延の当公廷における各供述、金熈明に対する司法警察員の供述調書、押収にかかる外国人登録証明書(証第一号)によれば、

被告人は、昭和二十七年九月頃、外国人登録手続に通暁していた金寿根に自分の写真などを托して外国人登録申請の手続を依頼し金寿根はその当時日田市役所において外国人登録事務を担当していた中川健と共謀して、同年十月二日頃、被告人の写真を貼付した李綾子名義の外国人登録原票を偽造し、更にその頃この原票の記載内容に合わせ被告人の写真を貼付した李綾子名義の外国人登録証明書の偽造を遂げて、これを被告人に交付し、被告人は右証明書が偽造にかかることの情を知らずこれを受取り、その後右偽造の情を知らぬままに右登録証明書を行使して、いわゆる切替等の手続を経て来たこと、

が認められる。金寿根に対する検察官の供述調書中には、被告人が右偽造の情を知つていた旨の供述記載があるが、この供述部分は、金寿根の当公廷における証言ならびに被告人の当公廷の供述に照し信を措き難い。その他右認定を動かすに十分な証拠は存しない。

当裁判所は、外国人登録法第三条第一項所定の申請をしないで同項所定の期間を超えて本邦に在留する罪が、いわゆる継続犯であるとすることにつき異見を持たないから、右期間経過後引続き現在まで適式な申請なしに本邦に在留する状態が継続している本件においては、客観的には確かに違法な不申請在留行為が存続するものといわねばならないが、継続犯にあつてもそれが犯罪として責められるためには、いわゆる有責性を具備しなければならないところ、前記認定の事実関係を見れば、当該犯罪の成立につき不可欠の責任条件たる被告人の故意は、昭和二十七年十月二日頃以降にはもはや認め難く、従つて本件犯罪の終期は右年月日頃と断ずるのほかはない。そうすれば、昭和三十三年九月十一日になつて起訴された本件は、刑事訴訟法第二百五十条第五号により既に公訴時効が完成しているものといわねばならないから、同法第三百三十七条第四号に従つて免訴の言渡をする。

(裁判官 安倍正三)

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